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基調講演 - Explat設立イベント アーカイブ

基調講演 久野敦子(公益財団法人 セゾン文化財団 プログラム・ディレクター)


 セゾン文化財団は、1987年に実業家の堤清二によって設立された助成財団で、現代演劇、現代舞踊の助成活動を行っています。アート・マネジメントが日本に導入された頃から、ほぼ、その歴史を伴走していると思います。本日は、セゾン文化財団とアーツ・マネジメントの関わりから、現在の課題までを追ってみることにします。  1987年に財団が設立された頃、私は西武百貨店池袋店の中にあった200席ほどの劇場で、演劇と舞踊の劇場付きの制作の仕事をしていました。今でいう、アーツ・マネジャーです。百貨店の社員として10年くらい制作の仕事をしたのち、セゾン文化財団に入団しました。助成財団では、支援プログラムの企画立案や運営を担当する仕事を「プログラム・オフィサー」と呼ぶことが多いのですが、プログラム・オフィサーもまた、社会と芸術を繋げるという意味では、アーツ・マネジメントの職種のひとつだと、私は捉えています。セゾン文化財団は、設立当初からアーツ・マネジメント役割の重要性を、認識していました。

●アーツ・マネジメントの歴史
 1990年がメセナ元年と呼ばれていますが、企業メセナ協議会発足、芸術文化振興基金設立(文化庁)、 TPAMを運営している国際舞台芸術交流センター(PARC)設立 、東京芸術劇場開場、水戸芸術館開館、 経団連 1% クラブが設立された年です。芸術文化支援に対して、本気で社会が動き始めた時代でもありました。  1991年にセゾン文化財団では、10年委員会という勉強会を不定期に開催していました。現メセナ協議会専務理事の加藤種男氏、フェスティバルトーキョーのディレクター市村作知雄氏、東京芸術劇場副館長の高萩宏氏、メセナ協議会、セゾン文化財団といったメンバーでした。創作環境、舞台芸術を支える人材の育成や、公共ホール、国際交流、地域活性の問題を10年後に向けて解決策を考え実行しようという趣旨のもと様々な議論を行っていたそうです。

 そういった勉強会の中から、実情を良く知るため、1992年に「演劇・舞踊助成の評価と課題」調査およびアンケートとインタビューによる活動レビューを現場の芸術家、制作者に向けて実施しました。そこから優れた芸術団体の創造環境の改善と運営基盤の強化が急務ということが分かりました。

 そこで誕生したのが、芸術団体の運営を各団体3年間にわたり支援するというプログラムでした。ある程度のまとまった資金が、劇団内で動くとなると、経営計画、管理をする制作者の役割が非常に重要になってきます。文化庁でも、文化庁在外研修制度にアーツ・マネジメント部門の派遣が加わったのはこの年でした。セゾン文化財団にしても、文化庁にしても、企業メセナにしても、芸術を支援する面々はこの頃でそろったわけですが、助成制度に舞台芸術界はなじみがなく、申請書をきちんと作成することができない、中長期的なビジョンを語れない、というのが問題でした。

 それで、まずは、アーツ・マネジメントの理論と実践について先行している海外で勉強してきてもらい、日本における適応方法を考えて普及啓蒙してもらおうということで、1993年にコロンビア大学アーツ・アーツマネジメント留学、1996年にアーツ・マネジメント留学の支援を開始しました。高萩宏氏、吉本光宏氏、奥山みどり氏、助川たかね氏、玉虫美香子氏、宮井太氏、米屋尚子氏、福井健策氏などがこのプログラムにより海外で学んでいます。

 公共文化ホールは1990年代に建設ピークがあり、1994年には財団法人地域創造が設立されます。  1996年に文化庁では、アーツプラン21「芸術創造特別支援事業」において、より継続的かつ重点的な芸術団体への助成プログラムを開始したことを皮切りに、助成制度は、拡充整備されていきました。

 2001年に文化振興基本法、2012年に劇場、音楽堂等の活性化に関する法律が整備されました。
 2007年の調査では、アーツ・マネジメントを教える大学機関は、100を超えています。そのような、経緯・発展を経て、セゾン文化財団では、アーツ・マネジメントの普及というプログラムの役割を終えたと考え、プログラムは終了しました。20年の間に制作者の地位は重要なものとして認知されてきたと思います。

●活躍の場と求められる人材
 2010年以降、コミュニティ・アート、地域創生、創造都市、市民アート、アート・プロジェクトとアーツ・マネジャーの活躍の場は拡張しており、その分、求められるスキルも専門・高度化しています。また、助成金の増額とともに、今まで舞台芸術の世界にいなかったプレーヤーたちが参入しています。商業イベントのプロデューサー、広告代理店、シンクタンク、スポーツ産業、映像、美術、音楽など他分野の展開もあるでしょう。

 ここで、一回、求められる人材とはどういう人たちなのか、考えてみる必要もあるかもしれません。
 元メセナ協議会、現在コーディネーターをしていらっしゃる若林朋子さんが2007年に第5期文化審議会文化政策部会で参考意見として、「急な坂スタジオ」のセミナー「卒業したけど、どうしよう」で、芸術団体を運営する管理職にとった「どのような人材を求めているか」というアンケートの結果を引用なさっていたので紹介します。

判断力にすぐれている,めげない,頭の切りかえが早い,気配りができる,複眼的に考えられる,自分で状況を切り開ける,運が強い,自分で食っていこうと思っている,自分に自信を持って行動できる,語学ができる,それから,関連する分野とその周辺全般に関してスペシャリストである,どんな状況にあっても予期せぬ変化に遭遇してもどんな人と応対しても自分の軸がぶれなくスマートに対処,解決する,相手や周囲に不快な感情を与えるようなことを間違ってもしない,柔軟性に富んでいながら一本筋が通っている,極めて当たり前の感覚や意識を持つ職人だけれどもスーツを着こなしている,ミッションに対して意識が高い,バランス感覚にすぐれている,好奇心旺盛,自分に責任を持てる,許容範囲の広い,実行力のある,アートが嫌いではない人
第5期文化審議会文化政策部会参考意見より引用セミナー「卒業したけど、どうしよう」(2007年急な坂スタジオ)



  これは、一般的な企業が望んでいるジェネラリスト的な人物像と同じともいえますが、アーツ・マネジャーには、事務処理能力の上に、芸術に強い創造性という付加価値があります。そこがみなさんの強みになるのではないでしょうか。
一般企業人は、芸術の道にキャリアチェンジできるが、その逆は可能かという設問がかつてアーツ・マネジメントの雑誌でありました。私は、これほど創造的であることが要請されている現在、有能なイノヴェイターたちがこの業界にはたくさんいらっしゃると思っています。

 このような状況の中、2014年6月26日にExplatの立ち上げのことで、発起人の岸さん、蓮池さんから相談を受けました。制作者を必要とする場は増えているのだが、持続して就労できる職場環境がおろそかにされている現場を変えていかなければならない。その変化を起こすことが、後進にいま、必要なことであると訴えていかれました。

 1990年からのアーツ・マネジメント導入の10年があり、芸術をめぐる助成制度や法整備の10年があり、やっと制作者たち本人が自分たちの仕事のために動き出したわけです。またひとつ前進する機会が到来しました。Explatだけでなく、協働できる機関として、舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)、身体・精神のサポートを行うNPO法人芸術家のくすり箱、法律相談のプロボノ集団アート・アンド・ロウ、アートNPOリンク、Nextなどが活動しています。ネットTAMやフリンジなどのwebサイトも力強いサポーターです。

 ひとつの組織だけではなく、複数の組織が協働することができるようになったのが、これらの組織の強みであると思います。Explatが、先輩たちが積み上げてきた基盤を活かして、力を蓄え発揮し、実績を積み活躍なさることを祈念し、協力していきたいと思っております。

久野敦子(公益財団法人 セゾン文化財団 プログラム・ディレクター)