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理事長挨拶 - Explat設立イベント アーカイブ

理事長挨拶 植松侑子(フリーランス制作、Explat理事長)


 本日はお忙しい中、Explat設立イベントに足をお運びいただきありがとうございます。またUsteramの中継を通じてこのイベントを視聴していただいている皆様にもお礼申し上げます。そして本日の会場もご提供いただきExplatに助成いただいているセゾン文化財団、今日のイベントを助成いただいているアーツカウンシル東京にも改めて御礼申しあげます。 Explatの団体概要や詳しい事業内容は後半で改めてご説明させていただく時間がありますので、ここではExplat立ち上げに際しての私個人の決意表明になってしまうかもしれませんが、少しお話させていただければと思います。

 私が舞台芸術の制作者という職業の存在を知ったのは、大学に入ってからでした。それまでもダンスを習っていたので舞台に立つ機会はあったのですが、その裏側でどういう人たちがその舞台を支えてくれているかは、実は考えたこともなかったのです。 大学で上京し、たくさんの素晴らしい舞台を見て心が震える経験を何度もしました。そしてその時に疑問に思ったことがあります。それは、なぜ私の地元ではこういう作品がツアーしてこないのだろうか、ということでした。その時に初めて裏側で支える人たちの重要性に気づき、自分自身が舞台芸術作品を観客に届ける仕事をしたいと思いました。 制作者という仕事を知った時は、こんな仕事が世の中に存在するなんてなんて素晴らしいんだろう、とすごくワクワクしたことを覚えています。そして私は大学時代から制作アシスタントとしてこの業界に飛び込みました。

 それからもう10年以上経ちますが、この仕事を続けてきて、何百回とまでは言わなくても、何度も何度も言われてきた言葉があります。 それは自分の労働環境やキャリアプランに悩んでいる時に、そのことを周囲の人たちに話すと「でも好きなことやってるんだから、いいじゃない!」という言葉です。まだキャリアが浅かった頃は、周囲に言われたこの言葉を、何度も何度も自分自身に言い聞かせ、どんなに過酷な状況でも、睡眠時間が3時間を切ろうが、2か月間1日も休みがなかろうが、時給に換算したらとんでもないことになるということが分かっていても、何とか乗り越えようとしました。 好きなことやっているんだから文句を言ってはいけない。やりたいことをできている私は幸せだ、と。でもそんな自己暗示と現実とのはざまで、ある瞬間心が折れて、私は20代前半で一度この業界を離れました。その後普通に企業で働いてみたり、海外に行ってみたりして、再びこの業界に戻ってきたのは20代後半の時でした。でも、一度この業界を離れて外から見ていた時期があるからこそ、確信したことがあります。

 それは制作者は、芸術を社会とつなぐために不可欠な存在だということです。アーティストが作る作品を、時には行政や企業と協働しながら、観客に届ける、つまり社会と接続させていく、これは制作者にしかできない仕事です。私たちが持っている専門性はこれです。これには知識と、経験と、人的ネットワークが必要で、誰にでもできる仕事ではありません。これは疑う余地はありません。 しかしまだまだこの仕事の存在自体も、そしてその必要性も社会に認知されていません。私は、制作者たちがこの仕事に誇りを持って働ける環境を実現したいと思っています。

 私は今33歳です。私の倍くらいの年齢の先輩方が、舞台芸術の制作者なんていう仕事がそもそも日本に存在しなかった時代に、それぞれの活動を通じて、この仕事を職業として成立するような土壌を作ってくれました。 制作者に「なれる」、その扉を開いてくれた先輩からのバトンを受け取り、私たちの世代がすべきことは、制作者を「続ける」ための環境を作ることだと思います。そしてその環境を実現して、次の世代にこのバトンを渡したいと思っています。

 2011年にアメリカの研究者が次のような研究結果を発表しました。それは「米国で2011年度に入学した小学生の65%は、大学卒業時、今は存在していない職に就くだろう」というものです。 とんでもないスピードで社会が、時代が、変わっていく今だからこそ、今は存在しない職業がこれからもどんどん生まれてくるということだと思います。芸術と社会を接続させる制作者は、これから社会に認知されていく仕事だと思います。

 この仕事を生涯の仕事として続けていくために、ぜひみなさんとこれから一緒に今ある様々な問題点を変えていきたいと思います。「舞台芸術制作者が、自らの仕事に誇りを持ち、心身ともに健康で、生涯の仕事として続けられる」、そんな未来を一緒に創っていくために、Explatが立ち上がりました。私個人としてははまだまだ微力ではありますが、力の限りを尽くしてまいりたいと思っておりますので、ぜひ皆様方のご指導、ご鞭撻をよろしくお願い申し上げます。
 そしてExplatはこれからがようやくスタートです。皆様方のご支援、ご協力をどうぞよろしくお願いいたします。

植松侑子(フリーランス制作、Explat理事長)